人や社会、地球環境などに配慮した商品やサービスを選ぶ「エシカル消費」。毎日のくらしで消費しているものが、「どこで、どのように、どんな思いで」作られているのかを知ることから始めませんか。生産者と消費者をつないでいる人たちにお話を聞きました。
株式会社サミット神戸合同物産 営業部次長。バナナやキウイ、アボカドなどの追熟加工を専門とする会社で、コープこうべを担当する。
http://www.summit-kobe.co.jp
生活協同組合コープこうべ 協同購入センター姫路東で地域担当として勤務。2017年入所。
有限会社シサム工房 代表取締役。フェアトレード製品の販売や卸事業のほか、「フェアトレードノベルティ」の提案などを行う。
http://www.sisam.jp
僕の仕事は宅配業務で、組合員のお宅を訪問して注文された商品を届けています。
今日は、エシカル消費※ について、一緒に考えていただけると嬉しいです。
私の会社は、バナナなどの輸入果実の加工を専門としており、「おいしいモノづくりへのチャレンジ」を目標に加工技術の研究もしています。私は営業でコープこうべさんを担当しています。
私は、フェアトレード※ の衣服や雑貨、コーヒーなどを扱うショップを経営しています。経年変化して味わいのある家具などで作った空間の中でフェアトレード商品を提案する場をつくりたいと始めて、今年20周年を迎えました。
※エシカル消費:人や社会、環境、地域に配慮したもの、社会的課題の解決に考慮されたものを購入すること。また、それらの課題に取り組む事業者を応援する消費行動。
※フェアトレード:継続的な製品や原料の売買を通して、生産者の生活改善や自立を支援する貿易の仕組み。フェアトレード商品の購入は、エシカル消費の一つ。
なぜフェアトレードだったのですか。
私は大学生のとき人権問題に関心を持ち、アフリカを中心に世界を回りました。そのなかで、大変な環境のなかでも力強く暮らしている人たちに出会い、支援が必要な地域や人とつながる仕事をしたいと考えるようになりました。
卒業後はエスニック雑貨と飲食の会社でバイヤーをしていたのですが、3年目に“10年後の自分は何をしていたいか”を考えたんです。そのときに選んだのが「フェアトレード商品がある場をつくる」ことでした。
コープこうべの人気商品の一つに、プライベートブランドの「フレンドリーバナナ」があります。これも、国際協力に関わるものですよね。
はい。「フレンドリーバナナ」は開発されてから今年で26年になります。より安全でおいしいバナナを作ることを目的に、フィリピンにある農園とコープこうべ、私たち輸入・加工会社が一つのチームとなって取り組み開発した商品です。栽培方法には農園の提案やアイデアが生かされ、園地で働く人たちの健康やくらしの向上にも配慮して生産されています。収穫されたバナナは、すべて一定の金額で買い取り、青いうちに輸入します。それを追熟加工して出荷しています。
商品がどんなふうに作られているかを知ったら、おしいいだけじゃない何かを感じることができます。僕たちの仕事は商品を届けるだけではなくて、生産者と消費者をつなぐ役割があります。だから、生産者の思いや商品が生まれた背景などを伝えていけるようになりたいと思っています。
このショップには、たくさんのフェアトレード商品が置かれていますが、海外で作られたものが僕たちの手元に届くまでのことを教えてもらえますか。
商品開発からだと、うちの場合は商品がショップに並ぶまでに2年くらいかかります。
2年ですか?
さてどうしましょうっていうくらい長い期間ですよね。でも、そうせざるを得ないんです。うちは今、6か国13のNGOと一緒にやっています。それぞれが小さなところで、手仕事で作っています。商品開発は、日本の私たちがデザインを起こすことから始まります。そのあとのサンプル作成、商品製作と検品という工程を現地でやってもらいます。
工程の段階ごとに、産地や働く人たちの特性を生かしながら、力をつけていってもらえるようにすすめます。そのなかで、一番難しいのが質のコントロールです。日本の市場で受け入れられる商品に仕上げるために、地域によっては日本から道具を持ち込み、付きっきりで検品の方法を覚えてもらうこともあります。少し背伸びをしてもらうことも大事なので、気持ちが萎えないように配慮しながら根気強く技術を伝えていきます。
僕はシサム工房で買った箸を使っているんですが、パッケージの中に作った人たちのことを書いている紙が入っていて、本を読んでいるような感覚でした。箸を使うたびに、そこに書いてあったことを思い出します。
これですね。その商品にどんな背景があるのかを知っていただきたくて、スタッフ一人ひとりがストーリーテラーとなってお客様に伝えているんですよ。時間がかかる商品開発は、これからも続けていきます。お互いに何か問題が起きたときには、一緒に解決していくというのがフェアトレードだと思っています。
日本にいる僕たちがその商品を買うことが、支援を必要とする国の人たちの暮らしにつながるってすごいことですね。フィリピンにあるバナナの産地のことも教えてもらえますか。
フレンドリーバナナは、「子どもたちに安心してバナナを食べさせたい」という日本の私たちの願いをカタチにしたものです。そのために、フィリピンにある園地では健康な土づくりと、農薬をなるべく使わないための工夫をしながら生産されています。害虫・細菌感染を防除するために忌避植物やトラップ植物を植えたり、一つひとつに袋がけや傘かけをしたり、栽培には大変手間がかかります。
その栽培方法は同時に、園地で働く人たちの健康を守り、雇用を生みます。また、安定した収入が約束されることで、同じ場所で働き続けることができます。親子2代で働いている人もいます。26年間で園地の近くにはいくつかの村ができ、学校ができて、人々のくらしが豊かになりました。また、無料の健康診断や歯科検診なども実施できるようになりました。奨学金をもらって進学する子どもたちもいます。
買い物を通して産地の人たちとつながっていることを実感できますね。これからも、続けていくために大切にしていることはありますか。
バナナは日持ちがする商品ではないので、やはり味が最優先ですね。国際協力という生産背景があっても、商品が美味しくなければ続けて購入してもらうことはできませんから。日本に届いたバナナは、追熟加工で美味しさが決まります。私たちは加工技術の研究や工夫で、生産の最終工程を担っていると考えています。
たまに追熟が遅れて、「2日くらい寝かせてから食べるとおいしくなります」というメッセージが袋の中に入っていることがあります。それだけで、一番おいしいときに食べてもらいたいという気持ちが伝わってきますよね。
はい。大事に育てられたバナナを、より美味しく日持ちする状態で届けることが私たちの役割だと思っています。
いいですね。モノの背景にあるものを想像することは、その価値や魅力を何倍にも感じられますよね。
国際協力のほかにも、地産地消や被災地支援、環境保全につながるものを購入することが、「エシカル消費」と言われています。「エシカル」という言葉は、どれくらい認識されているんでしょうか。僕の周りを見ると、まだまだじゃないかなと感じます。
「エシカル」のことは知ってるけれど、意識しているかどうかは人それぞれなんじゃないでしょうか。
私は、直接、消費者と話をするという機会はありませんが、「エシカル」という言葉は、あまり浸透していないように感じます。フレンドリーバナナについては、私が入社したときにはすでに商品として販売されていたので定かではないですが、開発当時はエシカルという言葉や意識はなかっただろうと思います。
エシカルやフェアトレードを広げるために工夫されていることはありますか。
創業のころは、フェアトレードを前面に出し過ぎずに、商品を気に入ってもらって購入していただければいいと思っていましたが、今では、フェアトレードを思いっきり前面に出すようにしています。
それはなぜですか。
初めのころは、「かわいそうな人たちが作っているから」というチャリティのイメージが強くなるのを避けていました。でも、“そうしたフェアトレードのイメージを自分が変えていこう”という思いで、13年前に商品開発の専門チームをつくりました。商品の質やデザインの向上に取り組み、モノの後ろにあるストーリーを丁寧に伝えながら、フェアトレードの価値、魅力を発信しています。
うちでは森や人を守りながら栽培するフェアトレードのコーヒーを扱っているんですが、コーヒーを飲みながら、その後ろにあるストーリーを味わうことで、「おいしいコーヒーがさらにおいしくなる!」とおすすめしています。
買い物するときに、“おいしいから”“安いから”だけじゃない選択が、もう少し広がってほしいなと思います。エシカルを意識するきっかけがあるといいですね。
きっかけになるかどうかはわかりませんが、私は組合員さん向けの学習会をさせていただいています。そこでは、産地の取り組みのほかに、“バナナを買うことで園地の人たちの暮らしがこんなふうに潤うんです”ということをお話しするようにしています。
私は、「投票消費」って言っているんですが、投票するつもりで買い物をするんです。人それぞれに観点が違っていても、選ぶときに意思を持つことができます。そう考えると、「これはちょっとやめとこかな」「こっちを買おうかな」という視点が出てくるかもしれないです。
それ、すごくいいですね。僕は、口コミの力ってすごいなと思っています。買い物をするときに、友だちや家族がおいしいと言ったからという理由を優先する人が多いからです。だから、自分がいいと思ったことは、職場の仲間や後輩、友だちに伝えるようにしてみます。
口コミは効果がありそうですね。自分がいいと思ったことを身近な人に伝えると、その人からまた別の人へとつながっていって、エシカルやフェアトレードが自分ごとになるかもしれないですね。
うちでは、「フェアトレード川柳」っていうイベントをやっています。川柳を作るためには、まずフェアトレードのことを調べますよね。それって、世の中にフェアトレードのことを考える仲間が増えるってことなんです。
実はね、フェアトレードのことも、うちのことも知らなかった女性が、川柳に応募するためにショップを訪ねてくれたことがありました。お話しをしているうちにスタッフたちと仲良くなって、イベントが終わっても会いに来てくれています。
その方は、川柳に応募することで、フェアトレードが身近なものになったんですね。エシカルを考えるきっかけは、いろんなところにあるんだと思いました。
そうですね。好きなものやおいしいと感じるものは人それぞれだから、きっかけもいろいろあるのかな。それらをカバーできるように、世の中にエシカルな視点を持つモノやサービスが増えてほしいと思います。そして、それを選ぶことがこれからのライフスタイルになっていくといいですね。私も、そこにベクトルを向けた事業を続けます。一緒に頑張ってくれるパートナーたちと、これからも私たちのやり方で歩んでいきますよ。
私は出張でフィリピンの農園を訪問するのですが、そのたびに大歓迎してくれます。生産者と消費者をつなぐ一人として、その信頼に応えられる仕事を続けていきたいです。
撮影場所:京都市中京区(シサム工房裏寺通り店、蛸薬師通、山崎橋)
水野さん、槌さんとお話をして、「身にまとう服」と「口にする食べ物」、取り扱うものは異なっても自分たちが向いている方向は同じなのだと認識しました。また、シサム工房のみなさんが産地の人たちとのパートナー意識を持ってモノづくりをされている理念や姿勢に感銘を受けました。
私は、「エシカル消費」の認知度はまだまだ高くないと感じています。フレンドリーバナナの話にもあったように、産地のことや生産者への影響を知って買い物をしてもらいたいと思います。だから、私は組合員に商品を勧めるときに、「なぜ良いのか」ということを意識して伝えるようにしています。
商品を選んで消費する。その意識と行動の先に何があるのか。生産の背景やストーリー、生産者の気持ちを伝えることは、消費者との橋渡しができる私たちの役割ではないかと思います。お二人と話をするなかで、自分にできることはたくさんあると感じました。配達のときに丁寧に説明する、学習会を開く、手作りのチラシを作ることはすぐにでも始められます。
「エシカル消費」を無理に広げていくのではなく、買い物をするとき、商品を選ぶときに「エシカル」を意識したり、共感したりできるきっかけを作っていきたいです。そして、これまでの「おいしいよ」「いいよ」という口コミが、「○○だからおいしいよ」「○○があるからいいよ」といった深堀りされた内容に変わって広がっていくといいなと思います。
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