CROSS TALK コープこうべの組合員や職員が、社会的課題の解決を実践している人に話を聞き、レポートしていく連載企画です。

CrossTalk 特定非営利活動法人soar 工藤 瑞穂さん×コープこうべ 尾野 絵梨子

左:尾野 絵梨子 右:工藤 瑞穂さん

2017年6月19日

第5回 思いを形にするために行動に移されたんですね。

困難を抱える人やそのサポートに取り組む人のインタビューをウェブメディアで発信するNPO法人soar。私は、「soar」の発信が社会的課題の解決につながっていると強く感じています。そこで、代表理事の工藤さんにお話しを伺いました。

起業のきっかけを教えてください。

私は幼いころから野口英世が好きで、社会的に弱い立場の人や苦しい人たちを助ける仕事がしたいとずっと思っていました。大学卒業後、日本赤十字社に入社し、仙台で献血の仕事をしているときに東日本大震災に遭ったんです。仕事では被災地に行けなかったので、音楽やダンスの仲間とチャリティーイベントを開催し、そこで集めたお金で支援物資を被災地に届けていました。避難所でダンスを披露させてもらったこともあるのですが、おばあちゃんが私たちのダンスをとても喜んでくれて。そのときに、自分が好きなことを生かして人の力になることができると知りました。ちょうどソーシャルデザインや社会起業家が注目され始めた時期で、それまで組織に入らないと誰かの役に立てないと思っていたけれど、自分で考えて自分で行動を起こすこともできると実感したんです。

思いを形にするために行動に移されたんですね。

被災地支援の活動のあとは、お寺や幼稚園などで、音楽やダンスと一緒に社会的課題について考えたり対話したりするイベントをしていました。「誰でも社会を変える力があるし、一人がちっちゃいことをすれば社会が変わるんだよ」というメッセージを伝えたかったんです。音楽を楽しんだりご飯を食べたりする楽しい時間と同じように、社会のことについて話し合ったり、誰かの力になることができればいいな、と思っていました。

メディアの立ち上げに至った経緯はなんだったのでしょうか?

イベントをやると、すごく楽しいしみんな笑顔になってくれる。でも、私はイベントに来られない人のことがずっと気になっていました。本当に大変な人は情報も受け取れないし、誰かとコミュニケーションをとりたいと思わないかもしれない。これで本当に苦しい人の力になれているのかと悩んでしまいました。何をしたらいいかわからない時期も長かったですよ。
それでも、気になる人に会ったり、活動に足を運んだりして情報収集をしていたんです。その中で、ゲイの友達や発達障害を持っている後輩が悩みを打ち明けてくれたこともあり、生きていくのにさまざまな困難がある人が身近にいると知りました。また、身近な人が統合失調症になってしまうという出来事もあって。周りも戸惑うだけで、誰かの力を借りることもできず、その人の症状は悪化してしまいました。あとで調べてみると、うつ病や統合失調症の人たちを支える先進的な活動はたくさんあり、もっと早くこういう活動を知っていれば、助けることができたのかもしれないと後悔して。
困難に直面したときに、役に立つ情報を知っているか知らないかは、人生を大きくわけてしまうことなんだと実感しました。そういう体験から、困難を抱える当事者たちに向けて、ウェブメディアで情報を届けていこうとはじめたのが「soar」です。

困難を抱えている人たちの力になることを模索した結果、「soar」の形になったということですね。

「soar」のコンセプトは「人の可能性が広がる瞬間を捉えるメディア」です。深刻な課題をそのまま伝えたり、困難を抱えている人を「かわいそう」という描き方をするだけでは、希望がありません。「困難があってもこんなサポートがあれば輝くことができる」とか、「今はこんな課題があるけれど、こういう解決のチャンスがあるんだよ」ということを示していくと、「私もそんな未来がいいなあ」と思ってくれる人が増えると考えています。
なので「soar」には、課題解決のチャンスを世の中に示している人たちに登場してもらっています。取材をする前には、困難を抱える人やサポートしている人に話を聞いて、どういうものが求められているのか、必ずいいと勧められるものかをしっかり調べます。また、「soar」ではまだ解決策のない障害や病気に関しても、前向きに生きている人の姿を発信しています。設立前に実施したヒアリングで、自分の障害や病気について情報がなく希望が持てないという声があったからです。

インタビューを記事にするにあたって、心がけていることはありますか。

「soar」では「その人の心が行きたい方向についていくインタビュー」を心がけています。企画やメッセージを最初から決めて、欲しい答えのための質問をすることはしません。感情を丁寧に受け止めて、インタビューを受けている人自身が経験を見つめなおして、前を向けることがゴールです。
“どうやったら困難を抱える人にまつわる問題が自分事になって、偏見や差別がなくなるか”を考えたとき、「友達になる以外ないな」と思ったんです。私が友達にゲイだとカミングアウトしてもらえたから、その悩みが自分事になったように、困難を抱える人と友達になることで、「私にも関係あることなんだ」「この人のためだったら何かしたい」と思えるのでは、と。ライターさんには「自分の友達を誰かに紹介する気持ちで書いてください」と言っています。ですから、「soar」の記事には、ライターさん自身の経験や感じたことが多く含まれているんです。

写真提供:NPO法人soar

これからの展望を教えてください。

あと2~3年で、「soar」を、困難を抱える人や社会的マイノリティにまつわるあらゆる情報が集まるメディアにしたいと思っています。そうなったら、企業や行政、教育機関など、さまざまなセクターの人たちと協力して、私たちが持っている情報やネットワークをどんどん活用してもらい、誰にとってもサポートが身近にある状況にできたらと思っています。
すでにコラボレーションが生まれているんですよ。たとえば、多様性が認められる働き方をつくっていくプロジェクトを企業と行ったり、子どものころから多様な生き方に触れられる授業を小学校と始めたりしています。
私は「soar」をメディアで終わらせるのではなくて、「多様な生き方が認められる社会がいいよね」「誰でも自分の可能性が発揮できる社会がいいよね」って思っている人たちが集うプラットフォームにしたいと思っています。
今年1月に、「soar」はNPO法人になりました。NPO法人になったことで、自分の思いをどんどん形にしていく人を増やすことができます。私たちの活動にたくさんの人に参加してもらい、もっと大きな動きをつくっていきたいと思っています。

コープこうべ住吉事務所で撮影

特定非営利活動法人 soar

ウェブメディア「soar」の運営を中心に、イベントの開催、コミュニティの運営、リサーチ活動を行う。人の持つ可能性が広がる瞬間を捉え、伝えていくことをコンセプトにさまざまな活動を実施している。
URL:http://soar-world.com/

インタビューを終えて・・・

私が工藤さんのお話を聞きたいと思ったのは、遠位型ミオパチーという難病を持つ織田友理子さんのインタビュー記事がきっかけでした。
葛藤を抱えながらも、今はまだ解決策のない難病に希望を持って向き合う織田さんの姿に感銘を覚えると同時に、インタビュー最後の質問に衝撃を受けました。それは、「能動的にいきることに価値が置かれる社会のなかで、いずれ動くこともできなくなってしまうことになっても、生きる意味はあると思いますか?」というもの。
ここまで踏み込むんだ、という驚きを感じたのです。それでも、織田さんのストーリーを深く掘り下げた記事の中ではその質問は自然なものに思えたし、「意味があると信じたい」という織田さんの答えは胸に迫るものがありました。今回、工藤さんのお話を聞いて、困難を抱える人たちのために生まれた「soar」だからこそ、彼らに寄り添った目線で臨場感のある記事をつくれるのだと腑に落ちました。
工藤さんがめざす“思いを持つ人が集うプラットフォームの姿”は、私が思う生協の姿と重なります。組合員の組織である生協もまた、自分の思いを実現するための組織であると思うからです。「soar」が与えてくれた心の揺さぶりを、私もいつか誰かに与えられるんじゃないかな、なんて希望が心に芽吹きました。「soar」の読者であり生協の職員である私は「さあいま動き出そう」という気持ちでいます。

文:尾野 絵梨子(2013年入所)

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