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健康食品・サプリメントのうそ・ほんと  Vol.19
金沢 和樹  

プロフィール 
神戸大学大学院 農学研究科教授

コープこうべ商品検査センター顧問

 

 

 


19 何をどれだけ食べればよいのか

今までの連載をお読みいただきご理解いただけたと思いますが、サプリメントでなければ量的に充たせないものもあるが、サプリだけに頼っていると、ビタミンのサプリ、美肌サプリ、リラックスサプリなどなど、毎日何十本ものサプリを飲まなければならないことになります。しかし食品ならば、一つの野菜がビタミン、ミネラル、食物繊維、さらに病気を予防する機能性成分を同時に含んでいます。日常の食事で多彩に野菜を食べるだけでいいのです。それでもサプリの方が手軽でいいという方がいるかもしれません。しかし、サプリならば人に大切な「噛む」という動作が欠けます。「噛む」という動作は上あごと下あごと激しく動かします。その接点部分はホルモン分泌を調節する脳下垂体の近くにあります。口を動かせば動かすほど分泌バランスがよくなって体の恒常性を維持します。さらに頬の筋肉を使いますので、脳を刺激します。よく喋る人ほど頭がいいといわれるのはこれです。このようにサプリメントよりも食物の方がいいのは判っていただけたと思います。しかし、どのような食べ物をどれくらいの量、毎日食べればいいのかという悩みが出てきます。昔から言われているのは、多様に、まんべんなく、適量ずつ、日に30種類以上の食品を摂ることです。では、この食品とは何か、適量ずつと言うが葉一枚でも効くのか、などが疑問になります。ここでは個々の食品の機能性成分の含有量から、1種類とカウントできる食品の量を考えてみようと思います。

 

―機能性成分は非栄養素
サプリメントの有効成分である機能性成分は、脂肪酸やアミノ酸などの一部を除いて、ほとんどが非栄養素(ひえいようそ)です。非栄養素というと役に立たないものと思われるかもしれませんが、そうではありません。逆に利点があります。栄養素は体の中では、エネルギーを作るために代謝されて、炭酸ガスと水になってしまいます。非栄養素はエネルギー代謝を受けませんので、条件が揃えば食べたままの形で体内に存在して体に作用します。その条件というのが難しいのですが、それを図28にまとめてみました。波のような形の細胞が小腸細胞です。図の上側が食物が消化される消化管の中(管腔(かんくう))です。下側が血液が流れている体内と考えてください。ここではポリフェノールの体内吸収を例にあげました。

 


 

体内吸収の機構は、抱合(ほうごう)という反応を受けないものもありますが、非栄養素の体内吸収はおおよそ同じです。私たちが食べているポリフェノールの種類はおおよそ270万種類ほどありますが、多くの場合、アグリコンとよぶポリフェノールの骨格に糖がついた形をしています。機能性を示すのはアグリコン部分で、糖がつくと機能性は大きく下がるかあるいは全くなくなります。糖がついていないアグリコンとして体内に存在すれば様々な機能性が期待できるのですが、それを見てみましょう。吸収経路は2つあります。一つは糖がついたまま、糖吸収を担当するタンパク質(このタンパク質の正確な名前は「ナトリウム依存性グルコース輸送担体」)が小腸細胞内に運びます。そして速やかに、糖を加水分解で外す酵素(ベータグルコシダーゼ)がアグリコンにします。もう一つの経路では、小腸表面に分散している酵素(乳糖フロリジン加水分解酵素)で糖が外されてアグリコンとして細胞内に吸収されます。いずれにしても、食べたポリフェノールは小腸細胞内では一時的に、機能性を示す有効な形態のアグリコンとして存在します。しかしアグリコンは速やかに小腸細胞内の抱合酵素(UDPグルクロン酸・硫酸転移酵素)で抱合され、グルクロン酸という糖または硫酸の抱合体になります。そしてほぼすべてが薬物排泄担当タンパク質(多剤耐性関連タンパク質)の2型で管腔側、つまり糞便側に捨てられます。ごく一部だけが薬物排泄担当タンパク質の1型で血液に放出されます。難しいことを書いてすみません。言いたいことは、機能性の非栄養素は、機能を示す有効なアグリコンの形態では私たちの体内にはほとんど入ってこないということです。体内に吸収されるのはどれだけ少ない量なのか、なぜ速やかにほとんどが排泄されてしまうのか、その意味をもう少し深く考えて見ます。

 

―機能性成分の体内寿命―
ポリフェノールなど、機能性の非栄養素の吸収を人で調べたデータがたくさんあります。それをまとめますと表4のようになります。1)の「いくらたくさん食べても体内濃度は低い」というのは、図28で示しましたように、小腸細胞から抱合体を排泄する薬物排泄担当タンパク質は、いくらでも抱合体を排泄できるので、排泄担当タンパク質が感知できなかった少ない量だけしか体内に残りません。

表4.機能性の非栄養素の人体内での運命


1)いくらたくさん食べても体内濃度は血液1リットル当たり1.5マイクロモル以下、多くの場合100から5ナノモル程度

2)体内の存在形態は機能性を示さない抱合体で、その50分の1あるいは100分の1量が機能性を示す形態

3)食べたのち9時間から25時間でほとんどが尿に排泄される

4)体内での最大濃度が半分の濃度に下がるまでの時間「体内半減期」は2時間から長いもので23時間

5)人にとって機能性の非栄養素とは、速やかに抱合・排泄されて体内に蓄積しないので、副作用をあらわすことがない安全な成分である

6)機能性の非栄養素を適切に食べれば病気予防が可能

7)機能性を期待するならば血中濃度を維持するために毎日食べ続ける必要がある

 

その少ない濃度はポリフェノールの種類によって異なりますが、緑茶カテキンは高く、約1.5マイクロモルです。ブルーベリーのアントシアニンなどは低く、100から5ナノモルです(ナノはマイクロの1000分の1)。これがどの程度の濃度かいうと、カテキンの1.5マイクロモルで血液1リットル中に約0.67 mgで、人の血中ブドウ糖濃度(血糖値)が1リットル中に1 gですから、その約1500分の1です。ブドウ糖は人に必須の成分です。その1500分の1というのは、体にはあまり必要がない成分だという意味です。
さらに、体内に存在する機能性成分のほとんどが抱合体で、2)機能性を示すことができるアグリコンの濃度はその50から100分の1です。そして、3)食べた後の1日以内にほとんどが排泄されてしまいます。その排泄速度を比較する目安が4)の「体内半減期」です。機能性ポリフェノールの体内半減期は2から23時間です。ところで、栄養成分のアミノ酸の半減期が80日から120日です。栄養素の体内寿命と比較すると、栄養素は日単位、非栄養素のポリフェノールは時間単位、非栄養素がいかに早く排泄されるかが判ります。これらを考え合わせると、5)機能性の非栄養素は人にとっては不要な成分で、食べてもすぐに捨てられてしまいます。しかし逆に考えると、捨てる代謝系がしっかりと成立しているので、その成分は体内に蓄積することがない、蓄積しなければ副作用がない、ということになります。つまり、都合がいいときだけ、体のどこかに異常が生じたときだけ利用される成分と思えます。異常というのは、例えば増殖速度が正常細胞よりも500倍速いがん細胞などです(本シリーズ17の「食生活でのがん予防」参照)。健常なときには排泄されてしまうので体に負担がなく、異常なときに効果を示す好都合な成分です。つまり、6)機能性の非栄養素で病気予防は可能です。

 

 →次回は、最終回です。具体的な食品の摂取量について説明します。

 

 



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