16.体力がつくサプリ
秋は運動の季節です。そのために様々なドリンクが売られています。そしてプロテインとかアミノ酸などが好まれています。これらは効くのでしょうか、考えてみましょう。
―元気が出るのはアルコール―
疲れたときや、より元気を出すために好まれている滋養強壮ドリンクがあります。容量はわずか数十ミリリットルですが、飲むとほとんどの人に効果があります。その成分は、表示を見ると、糖質、ローヤルゼリー、ビタミン、タウリン、カルニチン、漢方など多様です。このうち糖質やローヤルゼリーは有効なエネルギー源ですが、飲んですぐに効くという即効性はありません。効くまでに数時間かかります。ビタミン、タウリン、カルニチン、漢方は代謝を助ける成分ですが元気になる成分ではありませんし、即効性もありません。では何が効いているのでしょう。

手近に元気を出すドリンクがあればその表示を見てください(清涼飲料ではなく、滋養強壮ドリンクです)。元気を出すドリンクはいずれも少量のアルコールが入っているはずです。アルコールは気付け薬ともいわれますが、体内でもっとも速やかにエネルギーに変換される物質です。少量でもすぐにエネルギーになるので元気が出るのです。アルコールで即効的に元気を出しておいて、その間に糖質などの他の成分を代謝して元気を持続するわけです。これは悪いことではありませんし、使っているアルコール量は飲酒運転になるような量ではありません。なにかだまされているような気がしますが元気が出るという意味で「ほんと」です。
―体力がつく分岐アミノ酸―
必須アミノ酸9種類の中に分岐アミノ酸が3つあります。ロイシン、イソロイシン、バリンです。分岐アミノ酸はその化学構造が枝分かれしています。他のアミノ酸は枝分かれ構造を持っていません。そしてこの構造の違いがエネルギー源として代謝する組織を区別しています。体の中での役割が終わったタンパク質はアミノ酸に加水分解されて主に肝臓でエネルギー代謝されます。ところが分岐アミノ酸だけは肝臓で代謝できないのです。分岐アミノ酸をエネルギーに変換できるのは筋肉と脳です。筋肉や脳がエネルギーを求めていれば、分岐アミノ酸はこれらの組織に特別にエネルギーを供給できます。分岐アミノ酸を食べた場合も同様に筋肉や脳にエネルギーを供給します。このことは競走馬に分岐アミノ酸を食べさせて、たくさんの賞金を稼いだことで証明されました。しかし疑問があります。競馬は極めて激しい筋肉運動です。激しいスポーツをする人、激しく脳を使う人には有効なので「ほんと」ですが、普通に生活している人では分岐アミノ酸の摂りすぎになるので、アミノ酸栄養が偏るという意味で「うそ」だと思います。
―プロテイン補給剤―
プロテインは様々なアミノ酸を含んだサプリメントです。プロテインはアミノ酸を補給しますから、激しい運動の前ではなく、後で補給すると、次に運動をするときに筋肉タンパク質として利用されます。しかし、量のことを考えてみてください。サプリメントに含まれているアミノ酸の量は一つのパックで多くても4 gほどです。一方、栄養源としてのタンパク質の一日所要量は男性で70 g、女性で55 gです。つまりサプリメントから摂るアミノ酸の量は通常の食事で摂るアミノ酸の量の17分の1か13分の1です。サプリメントのアミノ酸は日常の摂取量の中に埋もれてしまい、補給する意味がありません。ならばサプリメントを5本あるいは10本などと多量に摂ればどうなるかですが、多量に摂るならばむしろ魚や肉を多めに食べる方がよいのです。運動をして体が疲れているときほどバランスよく栄養素を補給する必要があります。タンパク質は全摂取エネルギー量の12から15%、脂質は20から25%、炭水化物は60から68%を摂るのが理想です。魚や肉にはこれらの栄養素がバランスよく含まれていますが、サプリメントはタンパク質だけです。サプリメントのプロテインは、それよりも美味しい肉や魚を多めに摂る方がよいという意味で、「うそ」です。
―必須アミノ酸神話―
タンパク質は様々なアミノ酸が結合したものです。私たちの体のタンパク質を作るために使われているアミノ酸は、特殊なアミノ酸を除くと、20種類です。アミノ酸とはアミノ基とカルボン酸が付いた炭素に、「様々な構造」が付いたものですが、炭素・アミノ基・カルボン酸の部分はすべてのアミノ酸に共通です(図25)。そして「様々な構造」が20種類以上あります。そのうちの11種類は体のエネルギーを作る代謝経路のクエン酸回路というところで用いられている物質とほぼ同じです。つまり11種類の「様々な構造」は体の中に常にあり、いつでも供給できます。一方、残りの9種類はそうではありませんので、食品から摂らなければならない必須アミノ酸といわれています。しかし本当に必須なのでしょうか。

図25を見てください。食べたタンパク質は加水分解されてアミノ酸になり体内に吸収されますが、そのアミノ酸がすぐにそのまま利用されるわけではありません。多くの場合、いったんアミノ基が取り除かれて(矢印の@)、グルタミン酸というアミノ酸に蓄えられます(矢印のA)。アミノ基が除かれた@の右側の物質はケト酸ですが、これも体の中に蓄えられます(矢印のB)。そしてタンパク質を新しく作るためにアミノ酸が必要になったときに、必要な「様々な構造」部分を持ったケト酸を選び出してグルタミン酸からにアミノ基が渡されます(矢印のCとD)。この機構は大変合理的です。アミノ酸20種類を常に準備しておくためには大きな貯蔵場所が必要ですし、代謝系も混乱します。グルタミン酸にアミノ基だけをいったん蓄えるようにしておけばいつでも必要なアミノ酸を用意することができます。体はうまく作られています。
さてケト酸の「様々な構造」のうちの11種類はいつでもクエン酸回路から供給でき、残りの9種類が必須アミノ酸として食事から摂らなければならないものです。必須アミノ酸9種類の必要量が算出されていますが、その数値をすべて書くと複雑で見にくいですので、家庭科の教科書でよく使われているリジンだけを表2に抜粋してみました。「タンパク質1 gに含まれているのが好ましいmg量」というのは、リジンならばタンパク質1 g あたりに66 mg含まれていると、乳児が健常に成長するという数値です。この66 mgはこれだけ食べればよいという数値ではなく、食べたタンパク質の全アミノ酸量を1 gとした場合に、比率として66 mg つまり6.6%含まれているのが理想だという意味です。そこで家庭科の教科書に出てくる精白米を見てみますと、精白米のリジンは1 g中40 mg、つまり4%です。しかし、もう一度表2を見て下さい。少年の12歳くらい までの必要比率は1 g中44 mgで、やはり精白米の40 mgでも食パンの28 mgでも足りません。

ところが13歳以上になりますと16 mgとなり、精白米でもパンでも十分に充たせます。つまり13歳以上では必須アミノ酸は必須ではないのです。理由は、13歳までに摂取してきた「様々な構造」部分が図25に示したようにして体に蓄えられているからです。
さらにおかしな点が2つあります。精白米はアミノ酸価が悪いといわれていますが、これは乳児が必要としているリジン量で評価したものです。しかし、乳児は精白米ではなく、通常は母乳かミルクで育っています。また、12歳までの少年も精白米しか食べない人は居ないでしょう。通常は何か副食も一緒に食べます。例えば精白米とあじまたは豚肉を等量食べたとしますと、40に106または104を加えて2で割ると食べたリジンの比率が出ますが、73または72です。食パンと一緒に食べても67か66です。これを補足効果と言うそうですが、十分に必要比率の44を充たしています。つまり必須アミノ酸というのは存在しないのです。必須アミノ酸は栄養バランスを考えろという概念です。必須アミノ酸の考え方が示しているのは、食生活は偏ってはならない、精白米やパンだけを食べるのではなく、副食も多彩にバランスよく摂りましょうという戒めです。
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