14.正しいやせ方は活動量とのバランス
ー体に貯まらない油ー
図20は食事脂質が体内吸収される機構のイラストです。波のように描いたのは小腸の表面細胞です。その上側は消化管の管の中で、波細胞の下は血液が流れている体内です。私たちが普段食べている脂質は三本線に筒が3つ付いた形をしています。三本線がグリセリンで筒が脂肪酸です。この脂質は水に溶けませんので、消化管の中では胆汁酸が石鹸の役割をして水に混ぜ、消化酵素のリパーゼとコリパーゼに近づけます。リパーゼは脂質を加水分解しますが、必ず2の位置の脂肪酸を残します。そして脂肪酸二つと2の位置に脂肪酸がついたグリセリンとします。これを小腸細胞が吸収します。小腸細胞内ではエステラーゼという酵素が2の位置に脂肪酸が付いたグリセリンを認識して捕まえ、近くにある脂肪酸を無作為に1と3の位置に付けます。そしてこれをリンパ液中のキロミクロンというタンパク質が肝臓に運び、さらにその後には脂肪組織など体中に分配されます。食事量が多いときは、このようにして脂質は体に蓄積されます。

ここで脂肪が体に取込まれて蓄積されるポイントは、グリセリンの2の位置に脂肪酸が付いていることです。もし付いていなかったら、小腸細胞には吸収されますが、エステラーゼが認識できませんので脂質に戻りません。つまりキロミクロンが肝臓に運べず、体内に分配されないということです。その結果、小腸細胞の中で一部が消費され、ほとんどは再び消化管内に捨てられ、排泄されます。数年前からこのような脂質が市販されています。脂質の摂りすぎが気になる方は、2の位置に脂肪酸が付いていない油を用いてドレッシングを作ったり調理をするのも一案です。この脂質はアザラシやオットセイなどの体にもあり、縄文時代の日本人が食べていたことが遺跡から判明しています。この2の位置に脂肪酸が付いていない油は肥満の原因にならないという意味で「ほんと」です。ただし、この脂質にやせる効果はありません。食事量が多い人の場合は肥満を予防する可能性があるという意味です。また、脂肪には本シリーズのその3にまとめたように、人に必須の脂肪酸が含まれています。食事油を2の位置に脂肪酸が付いていないものだけに限ると、必須脂肪酸が欠乏します 。
ー肥満の原因になる栄養素は何?ー
前々回のカロリーオフ甘味料の図17は、肥満防止のためにはカロリーだけを下げてもダメで、カロリーを何から摂るかが重要であることを示しています。連日激しい運動や労働をしない、普通の生活では、エネルギー源として使われる
栄養素は糖質です。食べた糖質量が足らなければ脂質が使われます。タンパク質は窒素源として利用され、利用された後にエネルギー源として糖と同じ経路で消費されます。つまりタンパク質の摂取量は肥満にあまり関係しません。また、脂質は肥満の原因と敬遠されますが、仮に食事を米・パン・麺を全く摂らずに脂質だけにすると、むしろやせます。脂質は何年間も蓄えることができるエネルギー源で、糖質は食べたほぼその日に利用されるエネルギー源です。図21を見てください。

食品は糖質と脂質の両方を含んでいますが、糖質の摂取量がその人のその日の活動量と同じならば、食べた脂質はそのまま蓄えられます。つまりその分だけ肥えるということです。糖質の量が少ないとその分だけ脂質が利用され、余った脂質が蓄えられます。脂質を抑えて糖質だけを摂り、その量が活動量を超えていると余った糖質は脂質として蓄えられます。整理すると、図21の4段目と5段目のように、糖質が多くても脂質が多くてもこの両方の合計量が活動量に見合っていれば肥満にならず適切です。一方、洋菓子のように糖質と脂質の両方を多く含んでいる食品は、図の最上段の結果になります。
ー基礎代謝量を上げるー
人は熟睡していても大きなエネルギーを使っています。これを基礎代謝といいますが、この量が以外に大きいのです。図22を見てください。

基礎代謝量は人 の一日のエネルギー消費量の半分以上を占めます。また、起きて椅子に座ってじっとしていてもエネルギーを消費しています。ところで、あまり活動をしない生活と、よく活動している生活を比較してみてください。よく活動しているときは活動に必要な筋肉を養わなければなりませんのでその分基礎代謝量が多いのです。寝ている間に筋肉を養うために消費するエネルギー量が、あまり活動をしていない場合に比べて多いのです。そして活動しているのに食べる量が少なければやせます。逆に活動量が減ったのに同じ量だけ食べていると、余った分が蓄積されて肥満になります。若く活発に動き回っていたころに、いくら食べても全く肥えないという経験をお持ちの方が多いと思います。よく活動すればその分基礎代謝でのエネルギー消費が上がるからです。つまり、よく活動すれば寝ている間にやせる、楽な方法ですが、これは「ほんと」です。
ー食事量と活動量のバランスー
肥えすぎないベストの方法は、食べた量に見合う活動をすることです。活動とは筋肉隆々となるほど激しい運動をしろという意味ではありません。もちろんスポーツなどの激しい活動をしている人はたくさん食べる必要があります。ここではあまり激しいを運動せずに通常の生活をしていて肥満が気になっている人についてのベストの方法を提案します。このような人は、車で移動するのを止めて歩く、4階くらいならばエレベーターではなく階段にする。そして、朝食は十分に摂るが、夕食の最後の一膳のご飯は我慢し、野菜でお腹を膨らまし、タンパク質は摂っても炭水化物は控えめにして、アルコールも控えめにするという方法です。
家庭科の教科書には食物の重さを量ってエネルギー計算し、活動量と摂取エネルギーを合わせる方法が書かれています。しかし、生きている喜びの大きな一つが食べることです。それを数字で、朝は何キロカロリー、今日は何キロカロリーと割り振りしては全く楽しくなく、ノイローゼになります。生活を数字で縛っては長続きしません。長続きしなければせっかくやせかけてもリバウンドが来ます。そして、「やせる・肥える」を繰り返すほど糖尿病のリスクが上がります。朝食抜きやダイエットもこのリバウンドの原因になります。とくに若い人は体を作るために多量のエネルギーと栄養素を必要としています。朝食抜きやダイエットで食事量が足らなければ、30代を過ぎて骨粗鬆症などの生活習慣病に苦しめられることになります。活動せずに食べる量を極端に減らす食生活をダイエットと勘違いしている方がいます。我慢して節制すればやせることができるように思い込みがちですが、食べるのを止めたときに最初に消費される体の成分は糖質です。次がタンパク質で、脂肪が動員されるのはずっと後の方です。例えば激しい持続運動のマラソンでも、貯蔵脂肪が消費されるのは行程半分の20キロを過ぎてからです。つまりダイエットは、タンパク質を失って体を動かすのも気だるい、脂肪だけの体をつくってしまう結果になります。一方、絶食には様々な利点があるようです。水と少量の糖質で2,3日過ごすと体脂肪が消費され始めます。さらに数日これを続け、食事再開ではおもゆなどを少量ずつ食べ始めるとリバウンドも防げるようです。
栄養学には「人は食べているうちは死なない」という言葉があります。食べることは生きることの根幹です。ご高齢でもかくしゃくと仕事をしておられる方は例外なくよく食べます。そこで体に負担をかけることなく肥満を解消するには、絶食時は別として、普段は食べたいものを食べる。しかし、明日も美味しいものを食べたいから今晩は少し量を控えめにする。そして、動くこと、歩くこと、つまり日々の活動量を保つことを習慣にしてしまうことです。一年後、二年後という長い眼で、「やせる」を目指しましょう。 |