9.食物繊維の8つの効能
食物繊維は消化管内で膨れ上がることで栄養素やコレステロールの吸収を邪魔し、生活習慣病を予防します。また、人の健康増進に好ましい腸内細菌を養うことで生活習慣病を予防します。そこで、食物繊維の消化管内でのはたらきを口、胃、腸の順に見てみます。
―頭がよくなり肥満防止―
食物繊維は噛んでも容易に砕けないので飲み込むことができず、食物繊維の多い食品を食べると必然的に噛む回数が多くなります。噛むための上あごと下あごは蝶番(ちょうつがい)のように組み合わされていますが、その蝶番は神経が集中している延髄の近くにあります。噛むほど延髄を刺激しますので、神経のはたらきが活発になり、また、ホルモン分泌も調整します。
よく喋る人は頭が良いと言いますが、口を頻繁に動かすと脳が発達するという意味です。食物繊維を食べて噛む回数を多くするほど、脳のはたらきが活発になり、ホルモンの分泌バランスを整えて健康を維持できます。
また、食物繊維が多いと噛み疲れるので多くを食べません。そして食物繊維が胃に到達しますとその体積が数十倍になりますから胃が満腹感を感じて過食しません。つまり肥満防止です。
―お邪魔様に意味がある・糖尿病予防―
図13を見てください。小腸に食物繊維がある場合と、ない場合とを比較したものです。食物繊維は小腸内で膨れ上がります。その結果、栄養素の吸収を邪魔しますので、糖の体内吸収がゆっくりになります。吸収がゆっくりならば血糖値の上昇も緩やかになり、血糖値の上昇が激しいときに分泌されるインスリンも分泌する必要がなくなります。食物繊維が小腸内に少ないと、糖が激しく吸収され、血糖値もインスリンも急上昇します。この激しい変化は体の細胞に大きな負担をかけ、血糖値を調節できない糖尿病になります。つまり食物繊維は糖尿病を予防します。食物繊維が不足している人の糖尿病の発症率は46%、やや不足の人は41%で、適正量の食物繊維を食べている人の糖尿病発症率は13%という報告があります。この適性量は人によって異なりますし、SDFとIDFが混ざり合っていなければなりませんので、数値を示すと誤解が生じます。個人個人で判断していただくべきもので、本シリーズの前回の最後の項に書きましたように、毎日の便が水に浮かず沈ますが最適です。食物繊維の食品中の含有量も前回の表3を参照してください。
―コレステロール量を調節して動脈硬化症予防―
膨れ上がった食物繊維は胆汁酸という物質の吸収も邪魔します。胆汁酸は栄養素の消化吸収を助けるために体が分泌する物質です。


胆汁酸はコレステロールが少し形を変えた物質です。コレステロールは人の体の中でいくらでも作ることができますが分解して排泄する経路がありません。
コレステロールは溜まる一方の物質です。胆汁酸に変えて消化管に分泌する経路が、人では唯一の排泄系です。ところがせっかく消化管に分泌した胆汁酸は大腸から再び回収されます。
図13に示しましたように、もし食物繊維があれば大腸での胆汁酸の吸収を邪魔して糞便に捨ててしまいますので、コレステロールの体内蓄積を抑えます。これをコレステロール代謝の正常化といい、動脈硬化症や高血圧症の予防につながります。
―食事異物除去、大腸がん予防、便秘防止―
胆汁酸が大腸に移ると、腸内細菌がそれを二次胆汁酸に変えます。二次胆汁酸は弱い発がん性があります。弱いですが毎日多量に作られるので、二次胆汁酸が人の大腸がんの主因と考えられています。食物繊維は二次胆汁酸を絡めて糞便として排泄してくれます。さらに、食物繊維が直腸に移ると、膨れ上がった大きな塊ですから、腸はできるだけ早くそれを排泄しようとします。便秘防止です。食物繊維は二次胆汁酸だけではなく様々な有害物質も吸着します。有害物を多く含んだ食物繊維を早く排泄することはがん予防につながります。
例えば筆者の研究室で、マウスに地上で2番目に強い発がん物質を毎日与えました。マウスの平均寿命は900日ほどですが、この発がん物質を食べ続けますと600日になります。ところが発がん物質と同時に食物繊維が多い昆布粉末を与えますと、平均寿命が850日になりました。その腸内を調べてみると、昆布を食べ ているマウスの腸管には発がん物質がありませんでした。そして排便速度は昆布を食べていないマウスに比べて5時間ほど速く、便には多量の発がん物質が含まれていました。発がん物質は糞便とともに排泄されていたのです。このように、食物繊維が足りているかいないかは毎日の正常なお通じで判ります。

―腸内環境改善―
食物繊維にはもう一つ重要な役割があります。胆汁酸を二次胆汁酸に変える腸内細菌を減らしてくれるのです。腸内環境の改善です。
私たちの腸内には100兆個あまりの細菌が住んでいます。人の体を構成している細胞の数が約60兆個ですから、腸内細菌の多さには驚くばかりです。これを気持ち悪いと拒絶してはいけません。
腸内は100兆個の細菌が住むべき場所で、細菌たちは私たちの体が病原菌を感知して排除するのを助けてくれています。つまり、人は腸内細菌と共生しているのです。
しかし、悪いことだけをする細菌もいます。クロストリジウムと呼ばれる一群の悪玉菌です。この悪玉菌が二次胆汁酸を作ります。
一方、人の体になじんで何もしない菌があります。ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌です。成人になりますと100兆個のうちの60%以上が悪玉菌に占有されることがあります。これをできるだけ善玉菌に入れ替えれば大腸がんが予防できます。
食物繊維は大腸細菌の餌になります。善玉菌が食物繊維を食べると酢酸のような有機酸に分解します。有機酸は酸ですから腸内環境が弱い酸性になります。悪玉菌は酸性に弱いのです。そしてビフィズス菌や乳酸菌は弱い酸性なら生育できるのです。
つまり、食物繊維を摂るほど大腸内の悪玉菌が減って善玉菌に替わり、大腸がんが予防できます。腸内環境改善といいます。また、有機酸には大腸細胞を常に新しく更新する作用があります。
ビフィズス菌や乳酸菌にはさらによい力を私たちに与えてくれます。善玉菌は人の体になじむことで、人の体の細菌に対する感受性を鈍感にします。そして、なじむという作用で人の体が菌を感知して排泄する方法を教えてくれます。
なじんでいる菌以外のO-157のような病原菌が来ると、消化管は敏感に感知して排除するようになります。鈍感であることを免疫寛容といいますが、もし敏感だったら、食物も含めてあらゆるものを排泄しようとします。つまり過応答で、アレルギーです。 善玉菌は食物アレルギーを軽減して病原菌を排泄する力を与えてくれるのです。
―食物繊維が足りているか―
腸内環境が改善されているか否かは容易に評価できます。おならの臭い匂いを作るのも悪玉菌ですので、おならが臭いときは要注意です。
では、何を食べればよいのか。ビフィズス菌や乳酸菌をヨーグルトなどから摂るのも重要ですが、大腸内に餌になる食物繊維がなければせっかく摂ったビフィズス菌も乳酸菌も悪玉菌に追い払われてしまいます。つまり両方が必要です。
ビフィズス菌や乳酸菌をプロバイオティックス、その餌の食物繊維をプレバイオティックスといいます。
食品に含まれている食物繊維の量は、前回の表3を参照ください。
―ベータグルカンって何?―
食物繊維は糖がたくさん結合したものです。これをグルカンといいます。そして糖の結合様式にアルファとベータがあります。私たちの消化管はベータグルカンを消化吸収することができません。しかし、認知できます。
この認知を白血球が受け取って適切な応答をします。激しく応答するのではなく、がんや病原菌にだけ排除するような応答をします。
つまり、アレルギーを抑えて、がんなどを予防します。これを免疫調整とよんでいますが、ベータグルカンにはこの好ましい作用があります。ベータグルカンは日常のキノコ類や海藻類に広く含まれています。食生活に気をつければサプリメントとしてとるほどのことはありません
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