8.食物繊維は二重丸の健康食品
食物繊維、あるいはファイバー、ダイエッタリーファイバーとよばれている健康食品があります。炭水化物という栄養素がありますが、これは糖が数個から大きいものでは数万個つながったものです。この炭水化物には2種類、消化管の中で消化されて一個の糖になって体に吸収されて肝臓に運ばれエネルギーを作ることができるものと、人の消化酵素では消化できないので腸内細菌の餌になり排便されてものがあります。体のエネルギー源になるものを糖質と分類し、腸内細菌の餌になって糞便に捨てられるものを食物繊維とよんでいます。食物繊維は体の中に入らずに捨てられてしまうのですから役に立たないものと思われていました。しかし、健康増進を担う重要な機能があることが半世紀ほど前に明らかになりました。そして食物繊維は、その機能が最初に人で証明された最も歴史が長い健康食品です。「うそ・ほんと」から言えば二重丸の「ほんと」で、必須の食品成分です。
―食物繊維不足と病気―
このシリーズのその1の図1を見てください。日本人の病気のほとんどを占める3つの生活習慣病があります。高血圧などの循環器疾患、糖尿病、がんですが、これらは1965年ごろから急激に増えています。そして、図12を見てください。家庭科の教科書で見覚えがある、三大栄養素の摂取比の図です。

その図を1965年ごろのものと現在とを重ねてみました。昔は魚と野菜が一般家庭の副食メニューでしたが、1960年ごろからアメリカ型食生活が普及して肉食が増えました。肉はタンパク質源と思いがちですが、表2を見てください。タンパク質量はむしろ魚の方が多いのです。肉はタンパク質源ではなくむしろ脂質源です。
もう一度図12を見てください。タンパク質の摂取比は1965年とほぼ同じですが、脂質の摂取量が現在では大きく増加しています。脂質はカロリー量が高いのでその分だけ他の栄養素の摂取量が減ります。他の栄養素、つまり炭水化物の摂取量が減ったのです。炭水化物の給源は植物性食品ですので、植物性食品の摂取量が減ったのです。植物性食品は同時に食物繊維とポリフェノールの給源でもあります。つまり健康食品成分の摂取量が減り、結果として循環器疾患、糖尿病、がんが急激に増えました。とくに食物繊維の生活習慣病予防効果は明らかです。
―食べると数十倍に膨れることに意味がある―
食物繊維には、水に溶ける可溶性食物繊維(SDFと略されます)と溶けない不溶性食物繊維(IDF)があります。そして通常の食品ではこの両方が同時に含まれています。両方が混在していることに重要な意味があります。口で咀嚼(そしゃく)すると水に溶けるSDFは口の中の水を含んで膨れ、不溶性のIDFは唾液のムチン質を含んで膨れます。同じように胃内でもSDFは胃液とIDFは胃のムチン質で膨れます。そしてそれぞれの膨れた繊維が絡み合って、口の中ではもとの体積の数倍に、胃内では数十倍になります。さらに小腸では消化液や膵液を含みこんでもとの大きさの百倍以上になります。これだけ大きくなると、消化管の仕事を様々に邪魔します。栄養素などの吸収を邪魔するのです。そしてその邪魔に重要な意味があります。吸収を邪魔することで栄養素の消化吸収が緩やかになり糖尿病を予防・軽減します。また不要なコレステロールの再吸収を邪魔することで動脈硬化症を予防し、大腸がんを予防します。また、食物繊維は消化されずに大腸に到達しますと、腸内細菌の餌になりますが、その人の体に必要な腸内細菌を養う餌になり、悪い腸内細菌を駆逐します。これを腸内環境改善といいますが、この結果、がん予防、免疫調整、アレルギー軽減などの効果を示します。このように、食物繊維には8つにまとめることができる生活習慣病予防機能がありますが、詳しくは次回に述べます。
―何から摂れればいいか―
野菜ジュースから食物繊維は摂れますか、とよく聞かれます。もちろん野菜ジュースも果物ジュースも食物繊維を含んでいます。しかし、ジュースは水性食品ですから、水に溶けないIDFはあまり含んでいません。ミキサーでジュースを作るとミキサーの底に沈殿するものがあります。これがIDFです。また、コンニャクや寒天はコンニャクイモあるいは天草のIDFとSDFで作られていますが、コンニャクも寒天も水の中では塊です。上で、IDFとSDFの両方が混在するから生活習慣病予防効果があると書きました。ジュースにもIDFが少しは含まれていますが、もとの野菜や果物と比べると効果は劣ります。食物繊維のドリンクも水溶液ですので同様です。野菜、果物、海藻には量の多い少ないはありますが、必ずSDFとIDFが含まれています。よく食卓に上る食物の食物繊維量を表3にまとめてみました。

―どれだけ摂れればいいか―
摂取量はどれだけが適量なのでしょうか。これは自分で簡単に評価できます。毎日のお通じです。毎日の排便がスムーズで量も多いことが一点ですが、もう一つ重要なことがあります。便が水に決して沈まないことです。便器の底に便が沈んでしまったときは食物繊維の摂取量が不足しています。最適は便が沈みも浮きもしないことです。浮いた場合は食物繊維の摂りすぎです。摂りすぎても不都合はないのですが、食物繊維の摂取量が多すぎるということは、他の栄養素、例えば肉や魚が少ない訳です。悪くはないですが、何か食生活が寂しいですね。便が沈みも浮きもしないことが、食物繊維の摂取量が適切なことを意味しています。浮き沈みのない人生、平穏で、幸せではないでしょうか。

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