5.ポリフェノール逸話
これまで4回、健康食品の話をできるだけ科学的にしました。でも、読んでくださっている方々は別世界の話のように感じておられるかもしれません。そこで今回と次回はコーヒーブレイクで、身近な話題を取り上げることにしました。前回に話をしました抗酸化成分、それがポリフェノールという言葉で浸透していると思います。その逸話を少し辛口で紹介します。
―アントシアニンー
第二次大戦時のイギリスのパイロットの話です。彼はドイツに夜間爆撃に出る日の朝にブルーベリージャムを食べました。すると、灯火管制しているはるか遠くの町のロウソクの灯りが見えました。そして爆撃に成功しました。この逸話からブルーベリーがもてはやされるようになりました。目はロドプシンというタンパク質で光を感知して、ビタミンAの化学構造を変化させることで、見た物の画像を脳に描きます。ロドプシンとビタミンAは何度も光のエネルギーを受けますので、弱って酸化します。この酸化をアントシアニンは抗酸化能で防ぎます。ところでアントシアニンという物質は、いかに多量に食べてもほとんど体内には吸収されません。体内から検出されるのはナノモルという濃度です。血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)は5ミリモルほどですが、これと比較すると、アントシアニン濃度は最大のときでその100分の1です。体はアントシアニンを必要としていないので、ほとんど吸収しません。そして体内には貯めておく場所がありませんので、一時的に皮膚と目の網膜に留まります。そして1日ほど後には、皮膚と尿から排泄されます。毎日食べると目の感度が良くなると言われています。しかし現代に、夜間爆撃に行く人はいるでしょうか?そんなことよりも、美味しければいいのではないでしょうか。サプリメントよりも、ジャムがいいですね。

―ポリフェノールとは―
ここでよく使うフラボノイド・ポリフェノールという名称を説明させてください。私たちの食品に含まれるポリフェノールの種類は270万種類といわれています。ポリフェノールはフェニルプロパノイド類、アントラキノン類、フラボノイド類の3つに分類されます。図10にそれを整理してみました。
私たちヒトは酸素で栄養素を燃やすことでエネルギーを得て生命を維持しています。また、酸素を用いて感染菌の進入を防いだり、がん細胞を除いたり、有害物を解毒したりしています。酸素を用いるときには活性化して利用します。これを活性酸素と言います。この活性酸素は空気中の酸素と違って反応性が高く、あらゆるものを容易に酸化してしまう、きわめて危険な酸素です。活性酸素は体内で常に発生していますので、もちろんヒトは活性酸素を消去するシステムを完備しています。活性酸素消去酵素や抗酸化成分です。

フラボノイドはさらに8つに分類されます。これらはそれぞれ化学構造が異なり、効能も異なります。赤ワインのレスベラトロールやウコンのクルクミンはフェニルプロパノイドです。漢方の有効成分の多くは、例えばアロエのアロエエモジンのように、アントラキノン類です。フラボン・フラボノール類は植物の葉の部分に含まれています。フラバノン類には、レモンのエリオジクチオールやグレープフルーツのナリンゲニンなどがあります。また、カテキン類もフラバノンです。アントシアニンは赤の色素で、含まれる量が多いほど紫から黒色になります。
―赤ワインのポリフェノール―
フレンチパラドックスというとトピックスがありました。フランス人は多量にワインを飲む。ワインにはアルコールが入っており、アルコールを多く飲むと心疾患で死亡する率が高くなる。事実、同じようにワインを多く飲むドイツ人の冠状動脈心疾患(心臓に血液を送り込む動脈の疾患)による死亡率は高い。ところがフランス人の冠状動脈疾患による死亡率はその4分の1でした。これは大きな矛盾だ、というのがフレンチパラドックスです。この矛盾はすぐに解かれました。フラボノイドを一日19 mg以上摂る人は、それ以下の人に比べて冠状動脈疾患が4分の1でした。血流の病気の循環器疾患(動脈硬化症や高血圧症など)は、もともとの原因は血栓症と言って、血管にコレステロールや死んだ白血球が溜まって栓をすることによります。さらにその原因は、悪玉のLDLコレステロールの酸化です。一日19 mg以上のフラボノイドはその酸化を抑えてくれるのです。フランス人は赤ワインを好みます。赤ワインにはフラボノイドやレスベラトロールが1リットル当たり11.6 mg入っていました。一方、ライン川流域が主産地のドイツの白ワインは1 mg以下でした。フラボノイドは主に果皮に含まれ、多いほど褐色から赤紫色の皮になります。そして赤ワインは果皮も含めて発酵させます。

これらの研究はフランスの政策でもありました。カリフォルニア、ペルー、チリ、オーストラリアなどの安いワインが出回って、歴史あるフランスワインが押され気味であったその巻き返しです。そして宣伝効果は十分にありました。でも、あえてアルコールを飲まなくても、また、レスベラトロールのサプリメントを摂らなくても、赤ブドウジュースも1リットル当たり10.6 mgのフラボノイド・ポリフェノールを含んでいます。さらに、野菜類も豊富です。このシリーズ4回目の図9を参照ください。キャベツなら1キログラム当たり約200 mg、タマネギは400 mg含んでいます。
―大豆イソフラボンー
日本、韓国、台湾、中国の人は大豆製品を好んで食べます。その量は世界平均の約10倍です。そして、性ホルモンが関係するがん、子宮がん、乳がん、前立腺がんなどによる死亡率と、骨粗鬆症の発症率が世界平均の7分の1でした。これもトピックスになりました。そして精力的に研究されて解明されました。イソフラボンは性ホルモン受容体に作用して細胞の成長を調節するのです。女性も男性も40〜50歳代にかけて性ホルモンの分泌が不規則になります。これが体の細胞の成長を不規則にします。更年期障害です。とくに影響を受けるのが性にかかわる細胞と骨細胞で、性組織のがんや骨粗鬆症になります。イソフラボンは、作用は弱く穏和に性ホルモンの代わりをします。これらのがんや骨粗鬆症を予防し、更年期障害も軽減します。また、環境ホルモンの作用を抑えます。ところがイソフラボンを含む植物は少なく、大豆と葛、そしてヨーロッパで食べられているイナゴ豆くらいです。

この科学的情報がイソフラボンの世界的ブームを引き起こしました。アメリカには大豆はなく、ペリーが黒船で持ち帰ってから栽培されるようになりました。しかし、大俳優のスチーブ・マックィーンが、そのデビュー作「拳銃無宿」の中で野宿をしながら寂しく煮豆を食べていたように、大豆はアメリカでは貧しさの代名詞で、主に飼料として栽培されていました。日本への輸出用に栽培が拡大されたのは最近です。ところが、イソフラボンブームで、健康に良いならばと、赤ちゃんに豆乳を盛んに飲ませる母親が増えました。その結果、一部の赤ちゃんに過剰障害が現れました。日本の厚生労働省がイソフラボンの摂取上限を70 mgとしたのも、この事件が理由の一つです。大豆はイソフラボンを多量に含みます。イソフラボンだけでなくフラボノイド・ポリフェノールなどの機能性成分はすべて非栄養素です。タンパク質、糖質、脂質などの栄養素は代謝されてエネルギーを造りますが、非栄養素は造りません。非栄養素は体の役に立つはたらきをしますが、体が健康なときには不要な成分です。体はこれらを解毒してできるだけ速やかに捨てようとします。大人ならばこの解毒能力は十分に備わっていますが、お母さんの体の中で護られていた赤ちゃんは、産まれてすぐには十分な解毒能力がありません。そして大人でも、一日当たり300 mgでは軽い異常を訴えた人が1000人試験して2人いました。一日200 mgならば全く問題がありませんでした。錠剤では摂りすぎでしょう。何でも、過ぎたるは及ばざるが如し。ご飯でも食べ過ぎると糖尿病になることがあります。いかに良い成分でも摂りすぎれば毒です。
→次回は、イチョウ葉エキス、緑茶のカテキンについてです。
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