4.抗酸化食品
私たちヒトは酸素で栄養素を燃やすことでエネルギーを得て生命を維持しています。また、酸素を用いて感染菌の進入を防いだり、がん細胞を除いたり、有害物を解毒したりしています。酸素を用いるときには活性化して利用します。これを活性酸素と言います。この活性酸素は空気中の酸素と違って反応性が高く、あらゆるものを容易に酸化してしまう、きわめて危険な酸素です。活性酸素は体内で常に発生していますので、もちろんヒトは活性酸素を消去するシステムを完備しています。活性酸素消去酵素や抗酸化成分です。


ところが、図6に描きましたように、その消去システムの能力を超える量の活性酸素が発生するときがあります。このようなときには消去が追いつかず、活性酸素の毒性が現れて酸化ストレスという病気の一歩手前の状態になります。つまり活性酸素はタンパク質や遺伝子を酸化しますので、病気の原因をつくるのです。がん、動脈硬化症、糖尿病など多くの病気の直接の原因が活性酸素であることが証明されています。また、老化も活性酸素で促進されると考えられています。ならば、活性酸素を消去する能力を高めれば様々な病気を予防して健康寿命を延ばすことができます。これが、抗酸化食品に対する期待です。
―からだの防御システム―
ヒトのからだの中には多種類の活性酸素を消去する酵素があります。通常はこれらの酵素でほぼすべての活性酸素を消去できます。しかし、酵素での消去が追いつかないときがあります。からだの中の酵素の量は急に増やすことができません。暴飲・暴食、感染などで急激に活性酸素が生じたときには酵素の生産が追いつきません。そのようなときには抗酸化成分が重要な役割を果たします。からだの成分のビリルビン(ヘモグロビンの分解物)や尿酸、CoQ10(コーキューテン)、ビタミンCとE、カロテン類などです。図7にはたらきの一例を示しました。


活性酸素は代謝反応が盛んな細胞の膜で頻繁に生じます。膜は脂質でできていますので、脂質に溶けるビタミンEが膜内に存在することができます。ビタミンEは自身が酸化されることで活性酸素を水に変えます。一方、水に溶けやすいビタミンCは血液の中や細胞の中を循環しており、酸化されたビタミンEを還元してもとのビタミンEにリサイクルします。ビタミンC自身は酸化されますが、すぐにNADPHという補酵素がもとのビタミンCにリサイクルします。この補酵素はブドウ糖のエネルギーを使って、やはりリサイクル生産されます。このようにして私たちのからだは細胞が活性酸素で破壊されるのを防いでいます。ビタミンEのリサイクルできる回数は10回ほどといわれています。ビタミンCは何回でも利用できるようです。でも、水溶性ですから、毎日補充しなければ尿に捨てられてしまいます。
―抗酸化食品の役割―
ビタミンCとEはリサイクルできますが、その量が足らなければ活性酸素を十分に消去できません。そこで、食品の抗酸化成分が必要になります。図8は抗酸化能が強いといわれているポリフェノールの、タマネギのケルセチンとお茶のエピガロカテキンの効果です。抗酸化成分が何も無いときに活性酸素が発生すると、遺伝子の構成因子の塩基は速やかに、活性酸素発生後0分で酸化されます。ここに健常なヒトのからだの中に含まれているビタミンCを添加しますと、ビタミンCが酸化されて無くなってしまうまで遺伝子は酸化されません。
図8. 食品の抗酸化成分の役割
遺伝子の塩基の一つのグアノシンを活性酸素に曝し、そこに品の抗酸化成分を入れたときに、グアノシンの酸化がどのように抑えられるかを測定しました。赤丸はグアノシンが酸化された産物の生成量を、黄色の△は体内濃度(50マイクロモル)のビタミンC(Cと略しています)を加えたときの量の変化を、青丸は葉野菜やタマネギに多く含まれるケルセチン(ケと略)(1.5マイクロモル)を加えたときの量の変化、緑の四角は緑茶のエピガロカテキンガレート(カテキンあるいはカと略)(5.5マイクロモル)を加えた時の変化です。図中の「分」はグアノシンの酸化が始まるまでの時間です。
ビタミンCが無くなるのに60分かかります。同じようにしてケルセチンを入れると、7.5分間遺伝子の酸化開始を遅らせます。カテキンは22.5分遅らせます。そしてこの3つをすべて入れますと、ちょうど3つを足し算した時間の90分間遺伝子の酸化を遅らせました。このことが示しているのは、ポリフェノールは抗酸化ビタミンと協力してからだの酸化ストレスを抑えるということです。ポリフェノールにはもう一つ重要な役割があります。図7をもう一度見てください。細胞膜の表面にだ円を書きました。ポリフェノールは水に少し溶け、脂質にも少し溶けるという性質を持っています。ビタミンEは脂質にしか溶けませんし、ビタミンCは水にしか溶けません。ポリフェノールはこれらの中間の細胞膜表面ではたらくことができます。活性酸素は血液の中や細胞膜表面でも生じます。血液の中の活性酸素はビタミンCなどが消去できます。しかし、膜表面の活性酸素を消去できる生体成分はありません。食事から摂ることができるポリフェノールがあれば膜の酸化は抑えることができます。
―ポリフェノール・フラボノイド―
ではポリフェノールはどのような食品に含まれているのでしょうか。ポリフェノールは植物が光の傷害から身を護るために、また、微生物の感染や、昆虫に食べられないように自身の身を護るために作っている物質です。ですからすべての植物性食品に含まれています。その量を測定して、豊富に含む食品を上にして、まとめたのが図9のピラミッドです。ポリフェノールには色々な大きさのものがあります。大きいポリフェノールも小さいポリフェノールも効果同じです。重さで表すと誤解が生じます。図では生鮮食品100グラム中の分子の数、モルという単位で表しました。つまり1個2個という個数だと考えてください。緑茶やコーヒーのような飲料はポリフェノールを豊富に含みます。お茶をよく飲むヒトに生活習慣病が少ないという研究結果がよく知られていますが、ポリフェノールが豊富であることを反映しています。植物は光に応答してポリフェノールを作りますので根菜は一般的に含量が少ないのです。しかし、よく考えてみると、お茶をいかに多く飲むといっても茶葉の量に換算すればせいぜい十数グラムです。ところがジャガイモやニンジンなどは一食で百グラム以上食べます。つまり、ポリフェノール含量は低くても多く食べることができます。ですから、食べる量から考えると、食品のポリフェノール含量はみな同じです。

―日常の心がけ―
それでは私たちは日ごろ何に気をつければいいのでしょうか。酸化ストレスの原因は活性酸素の「急激な増加」ですので、急増の原因になるようなことを避けるのが大切です。図6をもう一度見てください。感染した微生物やがん細胞を除くために、白血球が活性酸素を急増させます。感染を避け、がんにならないように日常心がけなければなりません。有害物や医薬も、それを解毒するために活性酸素が急増しますので、できるだけ避けなければなりません。とくに気をつけなければならないことは暴飲暴食です。適量の食事やアルコールは容易に代謝されますが、暴飲暴食になりますと、それを代謝するのに多量の酸素を活性化して使いますので、活性酸素が急増します。節制が重要です。そして抗酸化成分の補給も重要です。ビタミンCの推奨摂取量は第六次改訂の「日本人の栄養所要量」で一日100 mgに引き上げられました。栄養化学者はもっと多い一日500 mgでもよいと考えています。都会で空気の悪いところで生活する人は環境中の有害物の解毒に多量のビタミンCを使います。ビタミンCは多い方がいいのです。そして摂り過ぎても、水溶性ですので過剰量は尿に排泄されます。一方、ビタミンEは上限が定められています。幼児は400 mg、成人は600 mgですが、錠剤で乱暴に摂らない限り、日常食品では摂りすぎにはなりません。また、抗酸化ポリフェノールも摂ることが推奨されています。
そこで、サプリメントとしての抗酸化ポリフェノールの「うそ・ほんと」ですが、摂ってもいいという意味で「ほんと」です。しかしあえてサプリメントでとる必要が無いという意味で「うそ」です。ポリフェノールは植物性食品ならば必ず含んでいます。野菜・果物・茶で十分です。むしろその方が適切です。野菜・果物・茶はポリフェノール以外にもビタミンCやEを適度に含んでいます。さらにミネラルや食物繊維も豊富です。サプリメントと大きく異なり、何が足らない、何が過剰などを気にすることなく、必要な成分を満遍なく摂ることができ、さらに美味しく食べることができます。

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