12.やせる商品ってあるの?
「ほっそりとしてスマート」、魅力的な言葉です。逆に「お腹が出ている」に続くのは「メタボ、かっこ悪い」です。しかし、やせるも太るも限度の問題で、やせ過ぎている人は太りすぎの人よりも病気の率が高いのです。例えば、重病の人も死に際にある方も太っていることはありません。そして、生命は食べたエネルギー源をできるだけ蓄えるように、つまり太るように代謝系がプログラムされています。その代謝を無理矢理やせる方向に傾けるのは好ましいことではありません。これは肥満を弁護しているのではありません。すでにやせているのに、あるいはちょうど適切な体型なのにそれ以上やせようとするのは好ましくないという意味です。そして「食べない」ことでやせようとするのは、体の機能の恒常性を混乱させるので危険です。「食べながら」やせるのが理想ですが、その方法は5つあります。
(1)代謝をじゃまするものを食べる
(2)エネルギー源にならないものを食べる
(3)体に吸収されないものを食べる
(4)食べたものを体熱に換えて発散してしまう
(5) 活動に見合った量を食べる、です。正しい方法は言うまでもなく(4)と(5)です。(1)、(2)、(3)は生き物の摂理に反していますが、これもここで考えてみます。
ー代謝系を阻害する商品ー
すべての生命の進化の歴史は飢餓との戦いの歴史です。微生物も植物も動物も、次はいつエネルギー源の食物が手に入るか分からないので、次に食物が手に入るまで生き延びるために、今食べたものをできるだけ長時間体内に蓄える方法を進化させてきました。人の場合は脂質です。食べたものが少しでも余ればすべて脂質として蓄え、余らなければ一部の代謝を止めてでも少しでも多く脂質を蓄えるように代謝系を進化させてきました。そして脂質は長期間貯蔵することができるエネルギー源です。その結果、人類は地上に繁栄できました。ところが現在、人は生命史上初めての飽食状態に襲われています。そして進化と生命の摂理に逆らって人々は必要以上にやせようとします。様々なやせる商品が氾濫しても不思議ではありません。もっとも容易なやせる方法は言うまでもなく、生命の摂理に逆らうこと、つまり病気になることです。やせる商品の中にはエネルギー代謝系を阻害する成分を用いているものがあります。このような商品を用いると1ヶ月ほどでやせます。しかし、これらは深刻な副作用があるという意味で「うそ」です。
ーカロリーオフの甘味料ー
甘いものは美味しい、でも太る。甘いだけでカロリーオフならば太らないのではと期待して、ステビア、アスパルテーム、アセスルファームK、キシリトール、スクラロースなど様々な甘味料が使用されています。これらのカロリーオフは数字の上ではその通りです。しかし、ほんとうに太らないのでしょうか。体のはたらきは数字だけで理解できません。甘いものが欲しいと思うのは、運動などで疲れると甘いものが欲しくなるように、体がエネルギー源を求めているからです。それに応えるにはエネルギー源になる砂糖やデンプンなどの糖質を食べなければなりません。糖質が速やかに利用できるエネルギー源で、甘いだけでエネルギー源にならない甘味料は体にうそをつくことになり、結果は裏目に出ます。図17は食欲が起こる機構です。これを見ればカロリーオフに意味がないことが分かりますので、少し面倒ですが(1)から順に(15)まで付き合ってください。

血液に含まれるブドウ糖の量のことを血糖値といいます。健康診断などで必ず血糖値を測るのは、ブドウ糖量が高すぎると血中のヘモグロビンなどにブドウ糖が結合して危険な状態になるからで、逆に低すぎても、ブドウ糖は脳のエネルギー源なので、脳の機能が保てなくなるからです。そこで、(1)血糖値が下がると、(2)脳は「エネルギーが足らない。何か食べろ」と緊急信号を発します。これが食欲です。(3)何かを食べますと、食物には必ず炭水化物が含まれていますが、その炭水化物 を口の中の微生物が一部だけ加水分解して糖をつくります。私たちははっきりとは自覚しませんが、味覚はこの糖の甘味を認識して(4))食物が来たぞという信号を脳に伝えます。(5)脳はすい臓に信号を送って(6)インスリンを分泌させ、体にブドウ糖の代謝の準備を指令します。(7)肝臓や脂肪組織にブドウ糖を取込ませて血糖値を低くするのです。なぜ前もって血糖値を下げるのかというと、先にも書きましたように、ブドウ糖はもっとも重要なエネルギー源ですが血糖値が高くなりすぎると危険だからです。そこで血糖値を低くして、ブドウ糖が体内に入ってきたらできるだけ多くを取込むための余地を作っているのです。この(4)、(5)、(6)を脳相のインスリン分泌といいます。通常はこの後胃の中に食物が到達します。胃の表面は脳とほぼ同数の多種類の神経細胞で覆われています。その一つが食物に含まれている糖を、甘味ではなく、化学物質として認識します。そしてそれを(8)脳に伝えます。(9)脳はすい臓にインスリン分泌を指令します。これは(10)胃相のインスリン分泌といい「ブドウ糖が胃まで来たぞ、もっと血糖値を下げろ」という強い指令です。この強い指令で、血液中のアミノ酸も糖に変換されて肝臓や脂肪組織に蓄えられます。しかし糖に変換できないアミノ酸があります。トリプトファンがその一つで、(11)トリプトファンは脳や小腸表面細胞に運ばれて、(12)水酸基が付けられてセロトニンというホルモンに変えられます。セロトニンは、脳や消化管の運動を活発にして(13)さらに食欲を上げ、(14)小腸からの食物の吸収を促します。その結果、(15)体内吸収された糖によって血糖値は一時的に高くなります。すると今度は消化吸収と食欲を抑えるホルモンが分泌され、私たちは満腹を感じて食べるのを止めます。この一連の応答に、通常は30分以上1時間弱かかります。思い浮かべてみてください。レストランでサーブを受けながら食事をすると、あまり量を食べていないのに満腹になります。レストランのサーブはゆっくりで、コースを食べ終えるのに1時間以上かかるからです。そして早食いの人は多くの場合肥満気味です。
このストーリーで胃に食物が到達したときの(8)を見てください。食べたものが砂糖やデンプンなどの糖であれば、胃はそれを認識して(9)の信号を出します。しかし、甘味料ならば胃は認識しませんので何も起こりません。血糖値が(7)の低い準備状態、つまり「待て」の状態が続きます。するとどうなるでしょうか、想像してみてください。犬に餌を前にして「待て」と命じるのはかわいそうです。そしてその後に「食べてよし」とすると、犬ではなくとも人でも普通よりたくさん食べます。多くを食べることができるほど血中の血糖値に余地ができているからです。つまり甘味料には食事促進効果があります。ダイエットではありません。
ー甘味料はダイエットではないー
甘味料を使ったコーラの肥満予防効果を報告した資料を調べました。コーラは砂糖を焦がしたカラメル飲料ですからカロリーが高いのですが、アメリカ人の中には一日に数リットルもコーラを飲む人がおり、この飲みすぎが原因で肥満になる人が多いのです。そこで企業はカラメルの代わりに着色料と甘味料を用いてカロリー量が7%低いコーラを作りました。そしてその効果を十数万人について2年間調査し、甘味料コーラを飲んでいる人はカラメルコーラを飲んでいる人に比べて、統計的な有意な差はないが、体重が4%低かったと報告しています。甘味料コーラではカロリー摂取量は明確に7%低いのです。ところが体重はカラメルコーラを飲んでいた人に比べて平均値では4%ほど低いのですが、統計的に有意な差はありませんでした。統計的に有意差がないということは科学的には効果がないということで、甘味料はダイエットにならなかったことを意味しています。つまり一部の人は体重が4%ほど低かったけれど、全体平均では体重差はなかったということです。より重要なのは、甘味料コーラは7%カロリーオフなのに、体重差は4%しかなく、しかもそれが一部の人だという点です。これは甘味料コーラを飲んでいた人の多くがコーラ以外の食品から、しかも通常コーラを飲んでいた人たちよりも多くのカロリーを摂ったことを示しています。図17に描いたように、(8)の手前で「待て」をすることは体をごまかすことになりますが、体はごまかしきれないということです。体が甘いものを欲しているのは甘いものがエネルギーとして必要だからです。結果的にいつかはエネルギー源を食べます。体が欲しているときにエネルギーを補充すれば、補充のし過ぎはおこりません。砂糖はエネルギーになる食品です。甘味料はエネルギーにならず、食品ではありません。上の結果は甘味料がダイエット剤ではないことを示しています。そして甘味料を使った食品から「ダイエット」という表示は消えました。つまり、甘味料はカロリーオフですが、肥満防止にはならないという意味で「うそ」です。
ー糖の体内吸収阻害ー
糖はすぐに利用できる必須のエネルギー源です。しかし、摂りすぎは肥満の原因になります。そこで小腸からの糖の吸収を阻害するサプリメントが多様に市販されています。数千年の歴史があるギムネマシルベスタとか、効果があるこを知らずに昔から食べていた食物繊維の仲間のアラビノースなどです。それらは体内に吸収されることなく小腸の管の中で作用しますので、安全性に問題はありません。だからと言って、サプリメントとしてこれだけを単独に摂っても阻害すべき糖が消化管中に無ければ何の効果もありません。その意味では「うそ」ですが、食事と一緒に摂れば食品の糖が吸収されるのを阻害するので有効で、「ほんと」です。しかし繰り返しますが、糖は人にとって必須の栄養素です。その吸収を阻害するのは生命の摂理に反します。仮りにこの吸収阻害剤を用いても、その使用量に十分に注意しなければなりません。
|